夜の露天風呂の端っこで、まさかの真実を知る。
行きのお土産屋で聞いた、夜中旅館から逃げ出して泣きながらタクシーに乗って帰った彼女は、私の部屋に居た人だった。
「そういうば、あんた、何か嫌がらせとかうけとらん?」
どうやらこの年配チームのモリタさんは、ボケボケな感じでなく、人と人との機微に察しが効くタイプのようだ。
「いや~実は、それっぽいことがあるような、ないような」
ハルカさんが食事中に出してきたあの板が、私のなくなった衿芯であった証拠はない。
なので憶測で騒ぎ立てるべきではない。
何せ私はここではまだ勝手のわからない新人なのだから。
それにこういう類のことは、悩み相談などが筒抜けになった場合、相手にダメージ具合を聞かせることになるため、相手の歪んだ喜びを助長する可能性もある。
ただ私の勘では、モリタさんはそこに加担してワイワイいうタイプではないかもしれない。
しかしモリタさんは、私の濁す言葉から察したようだ。
こういうことに首を突っ込んで、いい思いをするはずがない。下手したら巻き添えの返り討ちだ。正義のまかり通らない世界に、今私は身を置いているのだから。
しかしモリタさんは、
「ふーん、何かあったら、あたしんとこおいで」
そう言って風呂から出て行った。
そう言ってはもらえても、そこに駆け込んで安全な保証もない。モリタさんが解決できるかもわからない。
ただモリタさんがそう言い残した事実だけを、胸の中に置いておいた。
あれから数日、特に私の物がなくなったりすることはない。
私自身も神経を尖らせて、部屋を空ける時は物音を立てないようにして外に出たり、貴重品その他は押入れの奥深くに隠したりするようになったせいもあるかもしれない。
ある時、ハルカさんの教え子という子が、ハルカさんを訪ねて旅館に泊まりに来たことがあった。
その際、わたしはハルカさんに一緒について行き、その様子を見ていた。
ハルカさんは施設教員だったため、障害をもった方がお母さんと一緒にいらっしゃっていた。
「●●君、ありがとう~来てくれたんだね!先生とってもうれしい」
お母さんが●●君の代弁をするように言う。
「●●は、ハルカ先生に会いたい会いたいって言うので、ここに来たんですよ。●●、良かったねハルカ先生だよ」
●●君は嬉しそうに何かを言った。
「●●君、先生と結婚してくれるって言ってたの覚えてる?」
そんなことを言いながら、お母さま方と少しばかり和気あいあいと話していた。
「じゃあ、先生お仕事だから。来てくれてうれしかった!●●君に会えてうれしかったよ、ありがとうね!こちらの温泉はとてもいいので、ゆっくりして行ってください」
そういって、●●君とそのお母さんに声をかけて部屋を出た。
ハルカさんの本性を知っている私は、その一部始終を見ていて、背筋が寒くなる思いがした。
こんな風に善人の塊のような様子をする人に、この人が嫌がらせをやっているなどと、証拠もなく騒ぎ立てたらどんなことになることか。
そして、その善人面と吐き気のする悪事を働く本性が同居しているのにゲロが出そうだった。
しかし、そんなことはおくびにも出さず私も
「ハルカさんを慕ってここまで来るなんて、あの子ハルカさんのこととても好きなんですね」
などと、当たり障りなく茶番を演じた。
人手がいないのだから、こんな人でも居ないと仕事は回らず、自分の負担が増えるだけなのだから。
お盆のピークシーズンを終え、契約が終了する仲居の子たちが出始めてきた。
秋口に向かっていくため、追加で人は来ないようで、相変わらず私は一番の新米仲居のままでいた。
あまり話したことのない無口な20代女性、ショートカットでコゴトさんとおでかけしたことのある20代女性と、次々と20代の女性が居なくなっていた。
私としては見えない敵が一人、また一人といなくなっていくようで、精神的に楽になっていった。
そうして、ハルカさんが帰る日がやってきた。
ハルカさんは笑顔で、さわやかに私に
「がんばってくださいね!」
と言い残して去っていった。
その日、私はモリタさんと朝食後の宴会場の片づけをしていた。
そうしたらモリタさんは
「もしよかったら、この後私の部屋でお茶でも飲んでけ」
というので、無碍にするのも良くないと思い、その誘いに応じることにした。
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