お腹いっぱいのお昼の後、夜の教会へのお出かけの前に、夕方に羽生君の家に居候しているご友人のご自宅を訪問する流れとなった。彼の姉妹は、闘鶏用の鶏を育てる農場を経営しており、裕福なのだそう。
きっと私に物珍しいものを見せてくれるための取り計らいなのだと思う。
彼の義弟が経営する農場に訪れたところ、鶏たちが繋がれ、一羽一つのおうちがあてがわれ、決してお互いのテリトリーに侵入できないよう、鎖を調整されていた。
彼らは足に刃をつけて戦い、死ぬまで決着はつかないのだ。
闘鶏はフィリピンで人気のある賭け事らしく、そこで戦う鶏たちも高値で売れるらしい。
途中、義弟の方が鶏たちにエサをやって歩き始めたため、私もそこについて歩こうとしたら「危ないからやめるように」と促された。
鶏たちは決してフレンドリーではない、危険な生き物なのだ。
みんなでワイワイと農場に入ってきた猫などを眺めていたところ、羽生君はみんなの輪に入らず、座ったままだ。過去、学生時代に似た事象に直面したことがあったため、羽生君を気にかけた。
「あなた、ここで何やっているの?」
「僕はここで、自然の風を感じて感謝をしていたんだ」
などとくだらないことを言う。
私は羽生君を輪の中に入れることが大事だと判断し、羽生君にやたらと構った。
そうして鶏農場を堪能していたところ、羽生君の友人とお兄ちゃんとで、近くの川の方まで散歩に行くこととなった。羽生君は、ついてこない。
内心、おいおい、ここでの私の保護者はあなたじゃないの?なんで来てくれないの? と思いながら、皆の流れに従ってお散歩に行った。
戻ってくると、彼は座って他のメンバーと談笑をしていた。
私は何となく、面白くなかった。そして彼は、ふと立ち上がってお手洗いを借りていた。
私は彼の挙動の一連が気になり、つたない英語で羽生君にいろいろ話しかけた。
しかし、恐らくは私はこの時誤解をしており、羽生君は単にコンディションが悪かったのだと後から気が付く。彼はやたらとトイレが近く、やたらと腹を壊すのだ。
そうして羽生君の挙動に誤解を抱きながら、教会へ行くこととなった。
スペインの植民地だった背景もあると思うが、フィリピンはキリスト教がメジャーな宗教で、あちこちに教会がある。
羽生君の住むエリアは特に観光化されていないため、強いて見どころをあげるとするならば教会という感じだった。
特に教会に強い興味があるわけではなかったが、何かしらリクエストをした方が丸投げするより失礼ではないだろう、という判断と、WEB上でリサーチした中では比較的教会はお金もかからず楽しめる。
建物の様子によっては、感動することもできると、過去のスペイン旅行で感じていた。
そのため、教会をリクエストしたのだ。
羽生君のお兄ちゃんが運転する車には、ゆうに7人は乗っている。
日本では完全に定員オーバー、違法な状態。なぜか近所の女の子も同乗参加している。彼女は教会に行ったことがないとのことで、羽生君の妹の友達なのだろうか(よくわからない)フィリピンの人の繋がりは、きっと近所も家族もあまり境がないのだろう。
夕暮れになり渋滞がはじまった。
ゆっくり走る車同士のため、隣の車の様子が良く見える。
突然、女の子2人組がクスクスと笑い出した。羽生君のお母さんが日本語で「隣の車にカップルが乗っていてキスしてるから二人は笑っているの」と説明した。
そういう関連が不得手な私は
「事故りそうですね」
と日本語で回答した。
状況を察した羽生君は
「妬ましい」
と英語で言った。
私のこれまでの羽入君の発言から推察するに、彼は今年の2月ごろに恋人に二股をかけられて浮気され、食事や水も喉を通らない鬱状態になって仕事を1か月ほど休み(その間、私は予約のクラスをとっていたため実質1週間ほどのブランク)そこからまだ数か月なので、恐らく新しい恋人は居ない と予測を立てていた。
フィリピーノたちは、日常では英語ではなくタガログ語でコミュニケーションを取っているようで、社内ではタガログ語の会話が飛び交っていたが、羽生君は私が退屈しないように英語で会話するように努めてくれていた。
私は、先の予測について一切羽生君には伝えていなかったが、羽生君がそのコメントをわざわざ英語でしてくれたことについて、私に ”フリーアピール” をしてくれているのだったらいいな と思ったりした。
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