二次元の住人だった、オンライン英会話のイケメン講師・通称羽生君との三次元の時間がはじまった。
夜のお出かけというのは、何かとワクワクするので、事前に私がリクエストさせていただいた内容の一つだ。近場でやっているナイトマーケット(夜店)のあるところに行きたいとお願いしていたため、役所勤めのお兄ちゃんが帰ってきたところで、車に乗って出発だ。
ナイトマーケットの近くには、このあたりでわりと有名な建築物があったので、そこにも行くことになった。車から降りて、生暖かい空気の中、夜で静かになっている建築物の周りをみんなでぐるっと回る格好で散歩した。コミュニケーションの一環なのか、それともそもそも好きなのかわからないが、皆さん写真をよく撮りたがる。普段は食べ物や風景の写真ぐらいしか撮らない私も、皆さまに交じって写真を撮る。
このあたりから気が付いたのだが、羽生君はよく、やたらとトイレに行く。
この時も、近くのミュージアムにトイレを借りられるか聞いていて、ついでに私も行ってきた。
そうして、名所のまわりをぐるっと散歩して、写真を撮って、ナイトマーケットに向かった。ナイトマーケットでは、韓国料理なども含め、屋台というより、夜もやっている屋外型レストラン群という感じだった。その中の一角で、食事をすることとなった。
さすが南の島とあって、風は夏そのものの雰囲気だ。
彼とその兄弟とその友人と一緒に、適当に何かを頼みテーブルを囲む。
ここで何となく私は「私には秘密があって、それは最終日に伝えます」と言っていたものをお披露目したくなってきた。この秘密、というのは、私がこの旅行中に誕生日を迎えることだった。
事前にそれを知らせてしまっては、迎える彼ら側が重たくなるだろうし、事前に彼らは裕福ではないことも聞いていた。だから余計な気を遣わせたくなくて、ひっそりとこの旅の間に誕生日を迎えようと思っていた。なので私はなぜここで連休を取得していて、ここにこれているか明らかにしていなかった(聞かれてないし)。それでも何となくいたずら心が湧いて、今明かしてみようかなという気持ちになった。
「私が前、秘密があるって言ってたでしょ?旅の最終日に言うつもりだったけれども、今言いたい」そう前置きして、羽生君に伝えた。彼のお兄さんとそのお友達も興味津々で耳を傾けている。
「実は私、明後日が誕生日なの」
プチサプライズで、そこまで害のない情報と思って、さらっと言ってみたつもりだったのだが、一同の顔が曇っている。苦々しいとでも言おうか。
意外な反応に困惑した。
そして羽生君は、戸惑う私に言葉を添えた。
「フィリピンでは誕生日は家族とかと過ごす特別な日なんだ」
そんなの日本でも一般的にそうではある。でもそんなの、ある程度の年齢までの話しで、ミドルエイジに突入した私にとって、それはそこまで重大な意味をなさないように感じていた。だからこんな反応をされるなんて意外だった。
フレンドリーで家族愛が強く、いつも誰かと一緒に居るようなフィリピーノからしたら、私はとても気の毒な人間に映ったのだろう。
彼らの反応に戸惑った。フィリピンではどこまで一般的かはわからないが、毒親やDV家庭など、居ない方がいい家族というのは日本にはざらにある。
一人で誕生日とか、旅先で誕生日を迎えるとか。そんなのに、このような反応をされることは、まぁないんじゃないかと思う。
私は残念な日本人として、彼らの前に降り立ってしまったようだ。
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