ハグをして彼らと別れた後、私は飛行機のチェックインカウンターに並んだ。
別れの余韻に浸るのも束の間。
私はすぐ様、次の成すべきことに頭を切り替え、鞄から精神安定剤を取り出した。
これは行きの飛行機の搭乗の際にも飲んだものだ。
凄惨な虐待を幼年期に受けた私は、飛行機の離陸の際に感じる、自分ではどうにもできない大きな力が働く様子に恐怖を覚えてしまい、極度の緊張状態で過呼吸を発症する可能性を鑑み、事前に精神安定剤を処方してもらい、それを飲んで今回の旅行に臨んだのだ。
旅行前の休日に、何を何錠飲むと適量なのか、何時間で効き目が切れるのかリサーチした上で、自分なりの適量を探り当て、搭乗前に飲むことにしていた。
セルフコントロールがぎりぎりできる酩酊状態に自分を持っていき、自分の力で歩いて自分の席に座れる程度のことはできるが、座ったらほぼ眠ってしまう、それ位の容量を編み出していた。
薬の効果が完全になくなるのは飲んでから11時間後。フライト自体は5時間程度なので、早めに薬を飲んでおく必要があった。
なので別れの余韻に浸っている暇はなく、次に訪れる危機に備えて頭を切り替え、身構えた。
そうして危機に備えた戦闘モードに入りながら、精神安定剤を流し込んだ。
そうして涙した。
”もしも私が、まともな親の元に生まれ、育つことができたら、こんなことをする必要はなかったのに”と。
美しい感情の余韻に浸ることすらままならない、自分の生まれを呪い、みすぼらしく思った。
帰国翌日。
私は出社していた。4日間の連休を目一杯フィリピン滞在に振ったため、翌日ゆっくり休むというような選択肢は私にはなかった。
精神安定剤を飲んでヨレヨレになって空港に到着し、様々な交通機関を乗り継いで、片田舎の我が家に到着した翌日だ。
幸い、若い頃にスポーツに打ち込んでいたため基礎体力が高い私は、アラフォーながらしれっとハードスケジュールをこなすことが出来ていた。
目まぐるしくもエキサイティングな4日間を振り返りつつ、デイリーをこなしていた。
するといつもなら夜や夕方に来る羽生君からのSNSメッセージが、その日の午前中に入った。
「Hello」
「How are you?」
なんだかこんな時間から早速メッセージをくれるあたり、羽生君も私の滞在を楽しみ、喜んでくれたのかなと思い嬉しくなった。
私の仕事は午前中が忙しいことが多く、片手間でメッセージを返した。
「Hello」
「I’m fine! Thank you for your kindness in Philippines.I’m feeling exciting now!」
(元気だよ!フィリピンでは親切にしてくれてありがとう。私は今もワクワクしてます!)
「Me too!」
「I’m sorry my work is busy especially morning, so see you later!」
(ごめんなさい、私の仕事は特に午前中が忙しいの。また後でね)
「OK,see you!」
羽生君にもらえたメッセージにさらなる活力を得て、私は仕事に励んだ。
なんだか羽生君に対して、以前よりも距離が縮まった気がしていた。
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