猫と、私と、おばあちゃん。②

日常の出来事

下からは見通せない、隠れたスペースに、水とエサが置かれ、誰かがひっそり世話をしている様子が伺えた。おそらくそれは飼い主だったおばあちゃんによるものだろう。

らん子の踊り場スペースは2件分の家の玄関に繋がるものだったが、おばあちゃんの住んでいた部屋の向いは空き家だった。つまりこの階段を上る用事があるのはおばあちゃんだけだった。

居住者じゃない人間が入り込むには、ちょっとためらう奥まったスペースでもある。

状況から察するに、らん子は捨てられたか、どこかの移動のためにここで一時待機している可能性も考えられた。状況を確認するために私は「何か困っていたら連絡ください」と書いて、連絡先を添えてエサ入れの下に挟んでおいた。

するとほどなくして、おばあちゃんから電話がかかってきた。

雪で滑って車で事故を起こした

その事故のお金を払うために、寮付きの仕事に就かなければいけない

らん子の飼い主を探したが、8歳の猫は中々貰い手が見つからない、殺処分されてしまうかもしれない

近所の人に、らん子は私たちの癒しだから連れて行かないで欲しい、猫だから春くらいまで持てばどうにかなるのではと言われた 

そうこうしているうちに引っ越しの期限が来てしまって、数日に一度、ごはんをあげに来ている

などの情報を得ることができた。

まぁ状況から行って、飼えなくなってしまったという感じのようだ。

らん子から癒しをもらっていた身としては、彼の不遇は見過ごせない。

本当は子猫をもらって小さい頃から車中泊ができる教育を施し、その様子をYoutubeに挙げて趣味と実益を兼ねた活動をはじめたい、と思っていた。

けれどもアイドルキャットのらん子が、人間を信じ切ってあっちこっちで腹を出して転がるらん子が、人間に裏切られて荒んでいくのは見ていられないし、そんな不幸にさらされるかもしれないらん子が居ると知りながら、どこぞの子猫と楽しく暮らすというのは土台私には無理な話しだった。

それでも私の中にはためらいがあった。

今の時点で、らん子を引き受けます、と明言することを。

まだ引っ越し先も決まってないし、この中途半端な状態で自分がすべての責任を持つことも嫌だった。

だからもう、状況的には半分以上決まったも同然なのだが、若干言葉を濁した。

「まだわからないですけれど、よかったら、らんちゃん貰いましょうか?引っ越し先が見つかってからの話しですけど。ちょうど私、猫飼いたかったので。でもそれでも2、3か月は先になるかもしれないですが。」

そう申し入れたところ、おばあちゃんに

まだ決まってなくても大丈夫、もしよかったらでいいから、らんちゃんをもらうことを検討してほしい

と言われた。

こうして飼い主公認の、らんちゃん保護の協力者として活動する日々がはじまった。

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