赴任先として知らされた旅館に到着した。
しっかりとした建物で、そこそこ大きい気がした。
裏口などもわからなかったので、正面から入って声をかけた。
「今日からリゾートバイトで来ました」
すると、玄関にいたスタッフの方が女将の居る部屋へ案内してくれた。
女将は私の想像に反して、着物ではなく、洋服でひっつめた髪に眼鏡姿で旅館の口コミ対応をしていたようだった。
「この忙しい所に、来ていただいてありがとうございます」
それは皮肉なのかなんなのか、受け取り方に困惑する言い回しだった。
「まったく最近は口コミも返し方を気を付けないといけないから、困ったものよねぇ」
とブツブツ言いながら、仲居頭の女性を呼んで、私の部屋への案内やらなんやらをお願いしてくれた。
インドを放浪した後、フィリピンの語学学校に立ち寄った足での荷物だったので、恐らく他のアルバイトの方たちよりも私はヨレヨレした感じだったかもしれない。
旅館の建物のだいたいの配置と、仕事場となる配膳エリアや、仕事後に入っていいと言う旅館の目玉の天然温泉、そして私にあてがわれる部屋へと案内してもらった。
過去新聞配達や、民宿などで働いた経験もあり、住む場所にそんなにあれこれ言うタイプではないつもりだった。生きているだけで毎日3000円取られるネカフェ生活に比べたら、福利厚生として無償であてがわれる自分の個室は有難い限りだった。
「ここを使ってください。夕方は作務衣でいいから着替えて、さっきの厨房に来てね」
そういって、連れてこられた個室は、湿気でカビ臭く、5畳ほどの狭いスペースだった。
私は生まれてはじめて、自分のあてがわれた部屋に愕然とした。
贅沢言うタイプでもなく、オシャレにうるさいタイプでもない。その私が部屋で落胆するなんて、かなりの破壊力のある部屋だ。
背に腹代えられな過ぎて、受け入れているが、仲居頭の彼女が扉を閉めた途端、私は脱力した。
遠路はるばる長旅で到着したばかりだからと言って、私に一息つく暇はない。
まるでジブリ映画の主人公みたいに、到着早々から労働が待っていた。
作務衣に着替え、来る途中の100均で買った髪をまとめる網付きバレッタで髪をまとめた。
本来は夕食は、着物を着て接客するそうだがついて間もない私の着付けの面倒までみることができず、着物は明日から、私はとりあえず朝用の制服である作務衣を着て、夕食の厨房へ出向いた。
背の高いスラッとした若い女性(25歳くらいのようだ)のハルカさんが私の教育係としてついてくれるらしい。
「よろしくお願いします」
と人懐っこい笑顔で挨拶してくださる。
ここのアルバイトに来る前は、障害を持った子たちの先生をしていたようだ。
ハキハキとしてしっかり者の様子に頼れる印象を抱いた。
彼女の後について歩きながら、明日の配膳の準備をし、夕食の配膳に行くこととなった。
コース料理のような感じで、お客様の食べるスピードに合わせて配膳し、お料理の説明をしていくようだ。
最初は彼女のやる様子を遠目に見ながら、接客の様子を学んでいく。
「じゃあ次は、この料理出してみましょうか」
料理の簡単な説明について教えてもらい、お客様の側へ行って教えてもらった料理について説明する。
私とハルカさんのペアで一組のお客様の配膳を進めていく。
他のお客様にもそれぞれ担当の仲居が一人ずつ付いて居て、順番にお料理を出していった。
お食事が一通り終わり、お客様が会場から居なくなると、片付けがはじまった。
明日の朝の配膳の簡単な準備をして、その日の仕事は終わった。
こうして書くと何てことないようにも思えるが、実際にやると重労働でクタクタだ。
仕事が終わった後は明日の朝の集合時間を聞いて、解散だ。
私たちの賄いは、食事会場の下のフロアにある厨房で取ることとなっている。
仕事が終わった厨房に、私たち用によけられているご飯やおかずを盛り付けて、配膳室でもくもくと食べる感じだ。
遠方からこの温泉を目当てにやってくるお客様もいる、名物の温泉に終業後に入ることができる。
労働でクタクタだが、名物温泉に無料で浸かれるのは優越感がある。
そうしてカビ臭い自分の部屋へ帰った。
これまでが毎日3000円を失うネットカフェだったかと思うと、部屋代を払わなくていいこのカビ臭い部屋も、私にとっては有難い限りだった。
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