リゾバ冒険譚・温泉旅館編⑥ ~誰が敵か、味方か~

リゾートバイト冒険譚

部屋への不法侵入、複数名の集団による嫌がらせがあることが認識できた。

けれども、それは誰がどこまで関与しているのか全く見えなかった。

さっき一緒にハルカさんが衿芯を取り出した時、私同様に意味が分からずとも尋ねたりしないケースもあるため、一緒にいた全員が敵かは確証がない。

と、同時にあすこに居たメンバー以外も同調している可能性だってある。

何より恐ろしいのは、その主犯格とも思えそうなハルカさんが、普段の研修ではそんな素ぶりを全く見せず、やさしく面倒見がいいことだ。

これでは近寄ってきた誰も彼もに警戒心を抱きつつ、何でもない素ぶりでやり取りするのは神経が磨り減る。

こういうのに加担するのは20代の若者チームだろうが、全体の約半分を彼女らが占める事を考えると気持ちが悪くなる。

私は行きがけに立ち寄ったお土産屋で聞いた話しを思い出した。

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「少し前に夜中、泣きながら旅館から逃げ出してきた仲居さんが居てね。もう無理、と言って泣くんだよ。いじめがすごいみたいでね。あたしはタクシー呼んであげたんだけれども」

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まさか、ここの旅館の子だったのではないだろうか。。

また年配チームのコゴトさんが言っていた小話を思い出した。

「昔、下の厨房で料理長がバイトの子を殴ってね。救急車かなんか呼んだかもしれないけれども。結局、本当のことは全部隠して、そのバイトの子が悪いってことにして辞めさせたんだってさ」

村八分を恐れて、真実の証言をする人がいなければ、事実なんていくらでも改竄し、もみ消せる。被害者が真実を訴えても、複数名が違う証言をすれば、人数の多い方を第三者は信じてしまうだろう。

田舎の恐ろしさを垣間見た気がした。

正義や真実の通じない世界、それが僻地の田舎。

替えの衿芯を入れた着物で、夕食の集合時間に厨房へ集合した。

この中で何人かが、私が衿芯を抜かれたことに気が付いて動揺していることを腹の底でクスクス笑っているに違いない。話しかけてくる誰もが、ハルカさんのように親切な素ぶりをしながら信じられない悪意をぶつけてくるかもしれないと思うと、吐き気がするような思いだった。

この僻地の狭い社会で、これはかなり堪えると感じた。

そういえば、ここに来る前、派遣会社の人に言われた事を思い出した。

「くれぐれも期間満了まで辞めないでくださいね。結構途中で辞めちゃう子多いんで」

「大丈夫です、私体力に自信もあるので」

この事態に直面して理解するが、体力どうこうの問題ではない。

”途中で辞めちゃった子”は、もしかしたらこのような悪質な集団の嫌がらせを受けて、夜中お土産屋に駆け込んだ子かもしれなかった。

しかし、私はここから逃げ出したら、どんなに出費を抑えても1日3000円以上出ていく漫画喫茶生活になってしまう。全資産が15万円程度の今、そんな大金払いたくない。まして、紹介してもらった1件目の仕事でギブアップしたら、次の仕事がどうなるかわからない。

背水の陣の私は、こんな陰湿な嫌がらせごときで、退くわけには行かなかった。

生活がかかっているため、鉄の信念で吐きそうな気持を堪えながら、素知らぬふりをしてその日をやり過ごした。

そうしてその日の夕食も終わりに近づき、片付けをしていたところ、こそこそと話しているのが聞こえた

「気が付いてないのかな」

「そんなことある?」

気がついとるわ

そう思いながらも、その話声すらも聞こえなかったふりをして、素知らぬふり。

全く腹立たしい限りだ。皆さんは娯楽代わりに嫌がらせをしているのかもしれないが、そんなものはもっと生活にゆとりのある人同士でやっていただきたい。こんな生活弱者を突いたところで、背負っているものが違う。簡単に音を上げるわけにはいかない。

ようやく、一日が終わり、数少ない特典である旅館の名物の有名温泉で汗を流す。

部屋は再び誰が侵入するかもわからないので、貴重品などを押入れの奥に隠したり、脱衣所に持って来たりしていた。そして、部屋を出るときも不在であることを悟られないよう、音を立てずにそうっと出てきた。

こんな時くらい一人になりたいと、露天風呂の奥の方まで行ってみた。

すると、そこには年配チームの一人、モリタさんが居た。

「あんたも今、来たんかい」

「はい」

「あたしはこの温泉の、この奥の方が好きでね。お客さんもあんまり来ないで、ゆっくりできる」

どこの地方かはわからないが、独特の訛りでしゃべる方だった。

年配チームであるところの彼女は、この陰湿な嫌がらせには加担していないだろうと見越して、さりげなく情報収集できないか、それとない話題を振った。

「そういえば、ここに来る時に下のお土産屋さんで、夜中泣きながら逃げ出した仲居の子が居たって聞いたんですけど。恐ろしい話しですよね。どこの旅館なんでしょうね」

「あぁ、たぶんそれ、あんたが入っている部屋に前住んどった子かもしれん」

おぇぇーーー

あの部屋はそんないわくつきの部屋だったの?

あすこの部屋に入った人間が、次のターゲットってことなのだろうか。

私はそんなくだらないことに負けられない生活事情があるっていうのに。

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