謎の奇病により、足が痛む私に対しチャンコちゃんが声をかけてきた。
「大丈夫?」
「ありがとう、大丈夫だよ」
もはや背水の陣の私は「痛い」とすらも言えない。優雅に泳ぐように見えて、水面下で必死に水をかく白鳥のごとく、私の苦労は微塵も見せてはいけないのだ。「たいしたこと、ありませんよ」を全身で体現し、何とか期間満了まで走り抜けるのだ。
チャンコちゃんはこの仲居衆の中では最年少で、なんと二十歳という若さだった。
地元の専門学校を出てこの旅館に新卒で就職したらしい。
私には理解しがたい人生設計だ。(私も人のこと言えるほど立派な進路を歩けていないのが実情だが)
その若さを、この山奥で消費することが理解できなかった。
ハルカさんに研修を受けていたことと、仲居の仕事は厨房仕事以外はほぼ単独プレーだったので(部屋担当となり、そのお客さんの部屋案内、配膳をこなすことが多い)あまりこれと言って接点がなかった。
一度だけ、雑巾をまとめて洗濯する作業があった時に、使い方を教わりながらちょっと小話を聞いたくらいだった。
「あたし、彼氏が居てね、この旅館に居る××って人なんだけど、元ヤクザで入れ墨が入ってるんだ。友達にも ”あたしの彼氏、元ヤクザで体に入れ墨が入ってるんだ” って言ってるんだ」
どうやらチャンコちゃんの彼氏は、オシャレ仲居嬢がマークしていた、もさイケメンとは違うようだ。
チャンコちゃんの話しぶりから、どうやら田舎あるあるの「ワルがヒエラルキーのトップ」というような価値観がありそうな気がした。そうして、自分の彼氏はワルですごいんだ、みたいな意識が見え隠れした。
私個人からしたら、そんなバイオレンスな道を歩んできた人の心を移しとってしまうような深い関わりは避けたいところだ。無知故なのか、価値観の違いなのか。
チャンコちゃんに対する認識はその程度の感じだった。
華奢で小さく、20代には見えないくらい幼さを感じる容姿をしていた。
しかしそれとは裏腹に、めちゃくちゃナイスバディで ”脱いだらスゴイ” という感じでもあった。
一度温泉でカチあった時に、浴衣を羽織る直前の全裸を見たことがあったが面食らった。
衣服を着ている時からは想像できないくらい ”えぇカラダ” をしていた。
そして、ぎょっとした私を見逃さず、もう一度浴衣を羽織りなおしてカラダを見せつけてきたのも、チャンコちゃんの性質を表すエピソードの一つともいえる。
そしてなぜチャンコちゃんなのかというと、二十歳という若さでチャンチャンコの話しをしていたため土地柄なのか何なのか、印象に残ったためそのような名前にさせていただいている。
さてこのチャンコちゃんなのだが、手負いの私に優しく声をかけてくれている。
それにも関わらず、私が彼女の化粧を褒めたりしても軽くあしらったり、チクチクと感じの悪い振る舞いが目立ちはじめていた。
そこへ私が奇病故にいろいろな人から慮ってもらい、注目を集めているのがどうも面白くないようなのだ。
モリタさん曰く
「あんたのことが羨ましいんだよ」
とのこと。
一体何が羨ましいのか。その若さがあれば、海外にいくらだって行けるし、都会なりなんなり外の世界に飛び出していけばいいのに。
しかしこのチャンコちゃんの悪意は加速していくのである。
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