チャンコにいらつく日々を送りながらも、休みにぱーっとやりたくなった。
ぱーっとしたいからと言って、気軽に遊びに行ける場所もお金もなかった。
けれども私は一度だけ、約1か月半ほどの仲居勤務の間、街に遊びに行く休日を設けたことがあった。
旅館のフロントに勤務されている某男性は、麓から長時間かけて毎日通勤をしているという。
彼は運転が心から好きらしく、長距離運転しても全然疲れないと言うのだ。
この旅館の従業員が街に行きたい場合に、最もメジャーな交通手段が、このフロントの男性にガソリン代を包んで車に同乗させてもらう、という手段だった。
確か往復か片道か忘れたが、一律3000円ほどと定価が決まっていた。
当時時給勤務の私には大金だったが、この鬱屈とした世界から抜け出したい気持ちでいっぱいだった。
そのため、日々がんばっている自分へのご褒美として、私は街へ出かける休日を設定した。
夜勤のその男性が帰宅する早朝。
私は玄関で待ち合せ、彼の車に乗せてもらった。
車は1時間以上かけて麓に辿り着いた。
久々に触れる街だった。
私は首都圏の埋め立て地で育っているため、便利でモノがあふれた世界が当たり前という育ちだった。けれどもリゾートバイトを通じて、不便な田舎暮らしをする経験をこの後も何度もする形になるのだが、このように久々に触れる文明へのテンションというのは、砂漠をさまよった旅人がオアシスにたどり着くような歓喜が体から湧き上がるものだった。
そうして、この仲居の休日は、私にとって初の ”オアシス体験” だった。
こんなに100均が有難いと思ったことはないし、スーパーやコンビニに触れるだけでワクワクした。
こんなに安く、こんなに物が手に入るなんて、なんてすごいんだろう と、これまで感じたことのない喜びを知ることが出来た。
私は街に遊びに来たら、モリタさんに教わったようにサーティワンのアイスクリームを食べたらスプーンをもらって帰ろうと思った。
それまでサーティワンなんて実は食べたことがなかったけれども、モリタさんの影響や文明に浮かれる気持ちが、私に初サーティワンを体験させるきっかけとなった。
何とはなしにオマケにつくピンクのスプーンが、山奥に行けば貴重な資源になるのだ。
すごく贅沢だし、すごく不思議な気持ちだった。
今までやらなかったような、 「ザ・定番」 というようなミーハーな行動を意識的に行い、チェーン店にいちいち感動を覚えながら進んでのれんをくぐった。
そんな風に、久々の文明に心を沸き立たせていると、あっという間にフロント男性との待ち合わせの時間になった。
彼の出勤に合わせて、私はもう一度拾ってもらい、あの旅館に帰るのだ。
こうしてたまに街に出ると、本当に気分転換になった。
あの陰湿で忌々しい狭い世界が、まるで嘘の出来事のように遠く感じた。
大枚はたいた甲斐があったというものだ。
私はリゾートバイトでの田舎暮らしを経験しなかったら、この物にあふれた文明の有難さに生涯気が付くことは出来なかったかもしれない。
この後のリゾートバイトでも、私は幾たびか、この手の感動を味わうことになる。
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